先日、東京にビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)の主要メンバーが来日しました。ボーンデジタル主催のセミナー「BIG in Japan — From Vision to Visualization」には、日本各地から建築家やデザイナー、デジタルクリエイターが集まり、大きな盛り上がりを見せました。
午後にわたって行われたセッションでは、世界でも屈指の実験的デザインスタジオであるBIGが、創造の中心にある「人間らしさ」を失うことなく、どのように高度なデジタルツールを取り入れているのかが語られました。
この記事では、ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)がいかにしてテクノロジーを「物語」に変えるのか。世界水準のワークフローが語られたセミナーの全容を紹介したいと思います。
場所と目的が紡ぐ物語

セミナーの幕開けを飾ったのは、BIGのアソシエイト・アーキテクトである小池凌平氏です。彼は、BIGが日本で手掛ける最新プロジェクト「NOT A HOTEL SETOUCHI」をケーススタディとして紹介しました。
小池氏は、文脈(コンテキスト)、体験、そしてナラティブ(物語)によって形作られる「人と場所に応える建築」というBIGの哲学について語りました。テクノロジーが建物の構想や視覚化の手法を劇的に変えても、BIGのプロセスは常に人間のストーリーと空間の感覚的な質に根ざしていることを強調。概念的なスケッチがどのようにして実空間へと進化していくのか、その裏側が惜しみなく披露されました。
デザインにツールを適応させる
第2セッションには、ニューヨークオフィスのBIMディレクターであるヤン・リーンクネクト氏が登壇し、BIGがこの10年でどのように「デジタル連携スタジオ」へと進化してきたのかを語りました。
コペンハーゲン、ニューヨーク、バルセロナの各拠点で、BIGはAutodesk Revitを中心に据え、初期検討から実施設計までのワークフローを一元的に管理しています。ここで鍵となるのが、「ソフトウェアにデザインを縛らせない」という姿勢だとリーンクネクト氏は言います。
彼が強調した「ツールが創造性を妨げないよう、デザインに合わせてツールを柔軟に適応させる」という考え方の通り、BIGは独自の反復的なデザイン文化を守りながら、世界規模の複雑なプロジェクトをスケールさせることに成功しています。
リアルタイムが変えるビジュアライゼーション
最終セッションでは、カミラ・アントネラ・ミナ氏(BIG Barcelona所属、建築家/ビジュアライゼーション・スペシャリスト)が登壇し、リアルタイムレンダリングが単なる「最終出力」ではなく、コンセプトづくりとコミュニケーションをつなぐ重要なプロセスへと進化していることを実演しました。
2021年にD5 Renderを導入して以来、彼女のチームはこのツールを日常的なワークフローに深く組み込み、RevitやRhinoと直接連携させることで、デザイン検討の段階からライティングや空気感、素材感を即座に試せる環境を整えてきました。
具体例として紹介されたのが、ハンガリー自然史博物館のプロジェクトです。通訳を介しながら、厳しいスケジュールの中で野心的なデザインを実現するうえで、この「素早いフィードバック」がどれほど重要だったのかが語られました。

その結果、単なる作業の高速化にとどまらず、「デザイナーとビジュアライゼーション・スペシャリストの間に、より流動的で視覚的な対話が生まれた」とミナ氏は説明します。BIGにおいてレンダリングは、もはやプレゼン資料を作るための工程ではなく、デザイン思考そのものを支える核心的なプロセスへと進化しています。
創造性とテクノロジーの融合点
セミナーの締めくくりには、BIGチームと日本のデザインコミュニティによる公開ディスカッションが行われました。そこで浮かび上がったのは、「テクノロジーは意図を持って使えば、人間の創造性を置き換えるのではなく、むしろ拡張してくれる」という共通のテーマでした。
BIGにとってリアルタイム・ビジュアライゼーションは、フォトリアリズムを追求するためだけの手法ではありません。即時性やコラボレーション、そして“感情”を共有するための重要なプロセスとして位置づけられています。
同社が自らのデザイン哲学に沿うツールを探求し続ける中で、その取り組みは現代の建築実践に静かでありながら確かな変化をもたらしています。それは、ソフトウェアが形を決める建築ではなく、ソフトウェアが「物語」を可能にする建築へと向かうシフトを示しています。

まとめ
今回のセミナーを通じて再確認されたのは、BIGのような世界的スタジオが、テクノロジーを「思考の流れを止めないための実用的な道具」として丁寧に使いこなしているという点です。
印象的だったのは、D5 Renderが単なるレンダリングソフトではなく、設計者・クライアント・チームの間で共通の理解をつくるための「共有プラットフォーム」として機能していることでした。AI Atmosphere Matchやリアルタイム同期などの機能によって、これまで作業が止まってしまっていた「レンダリング待ち」の時間が、デザインについて話し合い、判断するための時間へと変わっています。
また、「建築は物語によって形づくられる」というBIGの考え方を支えているのは、設計者のアイデアをすぐに、そして感情を伴って視覚化できるD5 Renderのようなツールの存在です。ソフトウェアに合わせるのではなく、自分たちの創造性を最大限に発揮できるツールを選び、使いこなすという姿勢が一貫していました。
こうした取り組みは、今後の建築ビジュアライゼーションにおける新しい標準になっていくと感じさせる内容でした。
本セミナーは、株式会社ボーンデジタルが主催し、D5 Render と Autodesk がスポンサーを務めた無料イベントです。世界的建築設計事務所 Bjarke Ingels Group (BIG) のメンバーが来日し、最新プロジェクトや実務ワークフローを通じて世界水準の事例を紹介しました。
- イベント名:BIG in Japan: From Vision to Visualization
- 開催日時:2025年10月30日(木) 13:30 – 19:00 (懇親会含む)
- 主催:株式会社ボーンデジタル
- スポンサー:D5 Render / Autodesk
- 備考:当日は逐次通訳付きで実施されました。
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