第98回アカデミー賞視覚効果賞:受賞&最終候補作品のVFXブレイクダウンをチェック!

特集

2026年3月にロサンゼルスで開催された第98回アカデミー賞授賞式が開催されました。本年度の視覚効果賞にノミネートされた5作品は、それぞれが異なるアプローチで「現実とデジタル空間の融合」というテーマに取り組み、優れた映像表現を生み出しています。

本記事では、受賞を果たした『Avatar: Fire and Ash』をはじめ、最終候補に選ばれた5作品が採用した高度なVFX技術をみられる動画を紹介したいと思います。

『Avatar: Fire and Ash』

作品名『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(Avatar: Fire and Ash)
主要VFXスタジオWeta FX、Industrial Light & Magic (ILM)

あらすじ

シリーズ第3作目。主人公ジェイク・サリーとネイティリが、これまでの熱帯雨林や海洋から一転し、過酷な火山地帯を拠点とする「灰の民(Ash People)」と呼ばれる新たな部族と対峙する物語です。

VFXについて

本作の VFX は、Weta FX と ILM の緊密な連携によって、パフォーマンスキャプチャーとリアルタイムレンダリングの精度を大きく引き上げ、現実とデジタルの境界を感じさせない世界観を実現しています。特に、俳優の繊細な表情の変化を CG キャラクターへ高精度に反映させる技術が大きく進化しました。

特徴的な例として、新キャラクター「ヴァラング」の描写が挙げられます。ネイティブ 3D カメラなどを活用し、顔の筋肉の動きや感情の揺れまで細かくキャプチャーし、CG モデルへ非常に高い精度でマッピングしています。また、「水」の表現も大きな見どころです。急流からの脱出シーンでは、スタジオに約 95 万リットルの巨大な水槽を設置し、実際の水の動きを再現しました。

さらに「ライブ深度コンポジット」技術が採用され、カメラの動きに合わせてリアルタイムで深度マップを生成し、撮影現場のモニター上で実写と CG が正しい奥行きで重なった映像を確認しながら撮影を進められるようになりました。これにより、現場での判断精度が大幅に向上し、より自然な仕上がりにつながっています。

『F1』

作品名『F1/エフワン』(F1)
主要VFXスタジオFramestore、ILM、Red VFX、Lola VFX、Metaphysic

あらすじ

引退したベテランレーサーが、低迷するチームの若手ドライバーを指導しながら再び栄光を目指すモータースポーツドラマです。

VFXについて

ジョセフ・コシンスキー監督による本作の VFX は、約 2,500 ショットという大規模な構成でありながら、その中心にあるのは「観客に VFX を意識させない(インビジブル VFX)」という明確な方針です。レースシーンをすべて CG で作り込むのではなく、実際の F1 グランプリで撮影した実写映像を土台にし、必要な部分をデジタルで補完・拡張するという徹底したリアリズムが全編を貫いています。

特徴的な工程として「リスキニング(Reskinning)」が挙げられます。Framestore と ILM のチームは、実在のレーシングカーを映画の架空チームのマシンに置き換えるため、CAD データを基に精密なモデリングを行い、環境光や反射をピクセル単位で合わせ込む高度なコンポジットを実施しました。

また、特定のシーンでは、実際のレース中継のようなクリアな映像に対し、後処理で映画的なモーションブラーを加える工夫も取り入れられています。これにより、デジタル特有の硬さを抑え、スピード感や重量感を自然に感じられる映像表現が実現しました。

『Jurassic World Rebirth』

作品名『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(Jurassic World Rebirth)
主要VFXスタジオILM、Important Looking Pirates (ILP)、Proof

あらすじ

前作から5年後。心臓病治療の画期的な医療技術の鍵となる、巨大恐竜のDNA抽出ミッションに挑むチームのサバイバルを描きます。

VFXについて

本作の VFX は、最新の環境構築技術と大幅に進化したクリーチャーシミュレーションを組み合わせ、ドキュメンタリーのような映像の中で極めて高い生物的リアリズムを実現しています。実写ロケーションとフル CG の背景を自然につなぎ合わせることで、強い没入感を生み出すアプローチが取られました。

その中心となる技術のひとつが、最新の環境スキャン手法である「ガウシアンスプラッティング」です。タイのジャングルなどで撮影された膨大なデータをもとに、短時間で高精度な 3D 環境が構築されました。

また、恐竜のショットでは「動的シワ変位(ダイナミック・リンクル・ディスプレイスメント)」が大きな効果を発揮しています。動きに合わせて皮膚がたわみ、鱗の反射が変化する様子がリアルタイムで計算され、これまでにない生々しさが表現されました。

さらに、水生恐竜が襲撃するシーケンスでは、ILP と ILM が共同で高度な流体シミュレーションを実施。巨大な生物が水面を突き破る瞬間の水しぶきや複雑な水流が物理法則に基づいて緻密に描写され、迫力と説得力のある映像に仕上がっています。

『The Lost Bus』

作品名『ロスト・バス』(The Lost Bus)
主要VFXスタジオbeloFX、Cinesite、ILM、RISE Visual Effects Studios 等

あらすじ

2018年にカリフォルニア州を襲った壊滅的な山火事「キャンプ・ファイア」の中で、22人の児童を乗せたスクールバスが脱出を図る実話に基づくサバイバルドラマです。

VFXについて

本作の VFX は、派手な演出を前面に押し出すのではなく、大規模な山火事という自然災害の現実味を、ドキュメンタリーに近い質感で再現することに重点が置かれています。VFX を「恐怖と生存を体感させるための装置」として機能させるため、実際のデータに基づく精密なシミュレーションが全体の基盤となりました。

具体的な取り組みとして、VFX スタジオの beloFX は Unreal Engine を使い、実際の地形データをもとに被災地の「デジタルツイン」を構築しました。この環境を使って、火の広がり方や煙による光の変化をシミュレーションし、大規模な消火活動などをフル CG で再現しています。

特徴的なショットとして、バス内部のシーンが挙げられます。Cinesite による激しい火災と煙のシミュレーションに加え、beloFX が開発した「エンバー・カム」技術によって、空中を舞う火の粉や熱の揺らぎが物理法則に基づいて再現されました。これらをバスの窓越しに重ね合わせることで、極度の緊張感と閉塞感を観客がその場にいるかのように感じられる映像が生み出されています。

『Sinners』

作品名『罪人たち』(Sinners)
主要VFXスタジオStorm Studios、Rising Sun Pictures、ILM、Base FX 等

あらすじ

1932年の米国南部を舞台に、主演俳優が双子の兄弟の二役を演じるホラードラマです。

VFXについて

本作の VFX が直面した最大の課題であり、同時に大きな成果となったのは、IMAX 65mm アナログフィルム特有の有機的な質感(グレインやわずかな揺れ)と、デジタル VFX をどれだけ自然に馴染ませられるかという点でした。VFX が前面に出て自己主張するのではなく、巨大なスクリーンでも俳優の演技を支え、監督の意図を広げるための「見えない手段」として徹底されているのが本作の特徴です。

その哲学が最もよく表れているのが、双子が同時に画面に登場する複雑な長回しのショットです。従来の CG による顔の置き換え(フェイススワップ)は、フィルムの質感と馴染まないため採用されませんでした。代わりに、手持ちカメラでの長回しの中で俳優がそれぞれの役を別々に演じ、その映像を後からピクセル単位で合成し、タイミングを調整するという非常に手間のかかる方法が選ばれています。

さらに、アナログフィルムならではの質感をデジタルでも保つため、専用のフィルムエミュレーションパイプラインも開発されました。これにより、3.5 分に及ぶ連続ショットなど、映画史に残るほど複雑な合成作業が破綻なく仕上げられています。

98th Oscars: Visual Effects | Meet The Nominees

アカデミー賞受賞者リスト

授賞式は、2026年3月15日(日)にハリウッドのドルビー・シアターで行われました。

受賞者リストの完全なリストは以下をご覧ください。

コメント

Translate »
タイトルとURLをコピーしました