高品質な3Dアセットライブラリを誰でも自由に使える「パブリックドメイン(CC0)」として提供している「Poly Haven」が新しいアセットコレクションとBlenderアドオンの無料化計画を発表しました。
月面3Dアセットが無料公開
プロジェクトの背景
このプロジェクトの始まりは、約2年前にさかのぼります。ルクセンブルク大学の研究者アントワーヌ・リシャール氏からPoly Havenに一通の連絡が入りました。彼は、月面探査ローバーのAIナビゲーション技術に関する論文を執筆中で、その研究に協力を求めていました。
月にはGPSがないため、ローバーは搭載カメラの映像から自身の位置を割り出す「ビジョンベース・ナビゲーション」というAI技術が不可欠です。リシャール氏の研究では、このAIの機械学習モデルを訓練するため、極めてリアルな月の砂(レゴリス)のCGテクスチャが必要でした。そこで彼は、大学とドイツの宇宙関連施設「Spaceport Rostock」が一部資金を提供する共同研究として、Poly Havenに模擬レゴリスのスキャンを依頼しました。(リシャール氏の研究の最新情報はGitHubで公開されています。)

Patreonの支援者のおかげで旅費を確保できたPoly Havenチームは、ドイツの研究室へ飛び、作業が開始されましたが、その作業は困難を極めました。
本物の月の砂を模した「模擬レゴリス」は、大気による風化作用がない月面環境を再現しているため、ガラスの破片のように鋭利な微粒子で構成されています。これが空気中に舞うと、精密なカメラ機材を傷つけるだけでなく、吸い込めば発がん性もある非常に危険な物質でした。
チームはN95マスクを着用し、粉塵を舞い上げないよう、人が立ち入らずに撮影できる特製の自動撮影装置を自作。7m×4mの範囲をスキャンするのに毎回2〜3時間を要するなど、細心の注意を払いながら作業が進められたとのことです。

Raw データを含む3Dアセットが公開
この過酷なプロジェクトの末、1スキャンあたり約1500枚の写真、合計17億ポリゴンにも及ぶ巨大なデータが生まれました。そして、20種類のテクスチャアセットや、地球の岩にレゴリスを付着させた7種類の岩石モデル、さらには研究室を撮影したHDRIといったアセットが完成しました。
さらに、Poly Havenは、自分たちのアセットがクリエイターの手に渡ると何が可能になるのかを示すため、デモ作品を制作することがよくあります。今回の月面プロジェクトでも、アーティストのJames Ray Cock氏がすべての月面スキャンデータを使い、Blenderで月面環境のシミュレーションを構築しました。
これらのアセットは他のアセットと同様に「パブリックドメイン(CC0)」で利用可能です。
また、Poly Havenは科学コミュニティへの貢献として、これらの完成アセットだけでなく、撮影された約800GBもの生データのすべてを、誰でも自由に使えるパブリックドメイン(CC0)として無償で公開。これにより、世界中の研究者やCGアーティストが、最先端の研究や作品制作にこの貴重なデータを活用することができます。
Blenderアドオンの完全無料化へ
Poly Havenは、現在有料で提供している公式のBlenderアドオンを、将来的には完全に無料化するという計画を発表しました。
このアドオンは、Poly Havenの膨大なアセットライブラリをBlenderに直接統合し、ドラッグ&ドロップで手軽に利用できる便利なツールです。これまで、このアドオンの売上はPoly Havenの活動を支える重要な収入源となっていました。
しかし、彼らは「製品を販売することは、すべての人の参入障壁を下げるという我々の使命とは合致しない」と考え、原点回帰を決意。アドオンの売上に頼るのではなく、コミュニティからの寄付によって持続可能な運営を目指す方針を打ち出しました。
アドオンの無料化を実現するための具体的な目標は、月額支援プラットフォームPatreonのサポーター数を5000人に増やすことです。

この目標が達成された時点で、アドオンは有料販売を終了し、すべての人に無料で提供されます。
この挑戦は、単にツールを無料にするだけでなく、クリエイターコミュニティの支援によってオープンソースプロジェクトが成り立つことを証明しようとする試みとなっています。
なお、これまでアドオンを購入・支援してきたユーザーには、感謝の印として、今後公開される新規アセットへの永久的な早期アクセス権が与えられるとのこと。支援者が損をしない仕組みも用意されています。

























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