Adobe Premiere、Starlink、AIフェイス置換技術が受賞 — 2026年エンジニアリング・エミー賞、受賞者一覧

2026年9月3日(現地時間)、Television Academy(テレビジョン・アカデミー)とNational Academy of Television Arts & Sciences(NATAS)は、テレビの技術・エンジニアリング分野における功績を称える「2026年 Engineering, Science & Technology Emmy Award」の受賞者を発表しました。授賞式は10月14日、ロサンゼルスのTelevision Academy Saban Media Centerで開催されます。

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2つのアカデミーによる合同表彰

Engineering, Science & Technology分野のエミー賞は、Television AcademyとNATASがそれぞれ個別に選出してきましたが、今回は両者が合同で発表する形となりました。合同開催は2014年度以来です。両アカデミーは現在、組織の再統合を検討している段階にあります。

Television Academyの会長を務めるCris Abrego氏は、受賞者について「未来を思い描き、それを実現する技術を作り出す人々によってテレビは形作られてきた」という趣旨のコメントを発表しています。

生涯功労賞・法人功労賞

個人・団体それぞれの功績を称える2つの賞も、今回同時に発表されました。

  • Charles F. Jenkins生涯功労賞:Barry B. Zegel氏。CBSでキャリアを積み、CBS Television Cityの上級副社長兼ゼネラルマネージャーを務めた人物です。HD放送への移行を主導したほか、Television AcademyにScience & Technology Peer Groupを設立した中心人物です。
  • Philo T. Farnsworth法人功労賞:Chapman/Leonard Studio Equipment Inc.。1945年創業のカメラ支持機材メーカーで、Hercules Mobile Craneや業界標準となったLenny Armなどを開発してきた企業です。現在も創業者一族が経営を続けており、現CEOは創業者の曾孫にあたるCharles Leonard氏です。

Television Academy選出:Engineering, Science & Technology Emmy Award

放送・制作の現場で映像制作に大きな影響を与えたとされる技術・製品が選ばれています。CG・映像制作に関わりの深い項目を中心に紹介します。

Adobe Premiere
受賞:Adobe Inc.

プロ向け動画編集ソフトのPremiereが受賞しました。20年以上にわたる開発の中で、異なるカメラ・コーデック・フレームレート・アスペクト比の映像を1つのタイムラインで編集できるフォーマット非依存の設計を築いてきたことが評価されています。近年は機械学習や生成AIの機能をタイムライン上のネイティブ機能として組み込んでおり、AIによって生成された箇所を制作過程で明示する仕組みも備えています。


Avid DNx
受賞:Avid Technology

撮影から編集・納品までクリエイティブな意図を損なわずに運ぶことを目的とした、プロダクション用のメザニンコーデックファミリーです。低圧縮率のイントラフレーム方式と固定ビットレート設計により、フレーム精度でのランダムアクセスと安定したリアルタイム再生を実現しています。SMPTEによって標準化されています。


Chameleon
受賞:Benjamin Graf(Accentize)

現場や特定の空間で収録した音声から残響特性を解析し、ニューラルネットワークによって同じ響きのリバーブプログラムを生成するオーディオプラグインです。従来はインパルスレスポンスを現場で収録してリバーブプラグインに読み込ませたり、近い設定のプリセットを手作業で探して調整したりする必要がありましたが、Chameleonでは音声ファイルをドラッグ&ドロップするだけで数秒でリバーブプログラムを作成できるとしています。モノラルやステレオ音源からサラウンド用リバーブを生成することも可能です。


MatchBox Glass
受賞:James Robinson(Hitomi)

一般的なiPhoneを、リップシンクと遅延を測定する精密機器に変える技術です。カメラとマイクの前に直接、校正済みの映像・音声リファレンスを生成することで、専用ハードウェアや信号挿入、ベースバンドへのアクセスを必要とせずに音声・映像の同期を測定できます。分散型のライブ制作環境で広く使われています。


Snowbase
受賞:Roland Hathaway、Darcey Crownshaw、Frank Balzer、Dean Hathaway(Snow Business USA)

木材パルプのセルロースのみで作られた、生分解性の人工雪です。過酸化物系漂白剤や化学的な難燃剤を含まず、屋内外を問わず、動植物にも安全に使用できます。風を当てると本物の雪のように舞い落ち、高圧低容量の水ミストを吹き付けることで垂直面や逆さの面にも定着するとしています。氷を原料にしていないため数日間の再施工なしでの維持も可能で、標準的な送風機や水で除去できます。


Starlink
受賞:Starlink Services LLC(Space Exploration Technologies Corporationの子会社)

低軌道衛星コンステレーションによる高速・低遅延のブロードバンド通信サービスです。高度約550kmを周回することで、静止衛星(高度約35,786km)と比べて往復遅延を600ミリ秒超から約25ミリ秒まで短縮しています。可搬型の端末により、これまで通信環境の制約で困難だった場所からのライブ中継やポスト制作拠点への映像伝送が可能になっています。


Trinity® 2 Hybrid Camera Stabilizer System
受賞:Curt O. Schaller、Dr. Roman Foltyn

低い位置から高い位置への移動や360度回転、安定した水平維持などを1台でこなせるハイブリッド型カメラスタビライザーです。これまで複数の機材とカットを組み合わせて表現していたカメラワークを、階段の昇降や人混み、狭い空間での長回しも含めて1つの滑らかな動きにまとめられます。主要な授賞式やライブコンサート映画、大型スポーツ中継などで使われています。


なお、この部門の運営はDecoy Wines、FIJI Water、Franciacorta、Ketel One Vodka、LG、People、Raising Cane’s、The Ritz-Carlton、United Airlinesの協賛によって支えられています。

NATAS選出:Technology & Engineering Emmy Award

NATAS側では、複数の企業・団体が共同で開発した技術分野が対象として選ばれています。

分散型放送制作向けWebベース・フレーム精度リモートモニタリングシステム
受賞:SipRadius、NBCU、Grass Valley、CBS Sports、Disney、Game Creek、Amazon、Vindral

新型コロナウイルス流行時に急速に発展した、遠隔地からの高品質なライブ制作技術です。2024年前半にかけて進化し、現在は主要な放送局・ケーブル局・配信プラットフォームで標準的に使われています。


ライブスポーツ中継向けFPVドローンカメラシステム
受賞:OBS、Proton、Wave Central、Above Media

高速な機体と小型放送用カメラ、低遅延のRF伝送、専用の安定化システムを組み合わせ、選手を追い続ける没入感のある映像を可能にした技術です。2026年冬季オリンピックで複数競技にわたり活用されました。


ATSC 3.0(NextGen TV)のデジタル放送標準化
受賞:ATSC、Broadcast Standards Association

業界初のIPベース放送規格として商用規模に達した標準規格です。UHDやHDR、没入型音声、双方向サービスなどを可能にし、米国内外の多数の世帯に展開されています。


AMWA NMOSのディスカバリー・登録・接続機能の開発
受賞:Advanced Media Workflow Association、Sony、British Broadcasting Corporation、Streampunk Media

SMPTE ST 2110とあわせて、映像・音声をIPネットワーク上で伝送・検出・接続するためのオープンな標準規格を確立しました。すでに数千件規模の番組制作で利用されています。


SMPTEハイブリッドケーブル対応フォーマットコンバーター&パワーインジェクター
受賞:Telecast Fiber Systems、Bluebell Opticomm、Multidyne Electronics

既存のシングルモード光ファイバー基盤を使って、カメラシステムを数キロメートル先まで延長しながら映像・データ・電源を維持できる技術です。従来のSMPTEカメラケーブルの長距離敷設と比べ、ケーブル重量の軽減とコスト削減につながります。


AIによる顔置換とパフォーマンス保持型ポストプロダクション技術
受賞:Disney Research、Rising Sun Pictures、Digital Domain、Metaphysic(Brahma AI)

出演者の見た目をデジタルで調整しながら、自然な表情や動き、光の当たり方、シーンのリアリズムを保つ技術です。ポーズや照明、遮蔽物、演技の変化にも対応し、映像を通じて一貫性を維持できます。VFXやデジタル若返り、スタントの置き換え、なりすまし対策、リアルタイム制作などへの応用が挙げられており、MetaphysicやDisney Researchの技術は実際の映画・テレビ作品で俳優のデジタル若返りや演技の補強に使われてきました。

パイオニア表彰と競争部門のノミネート

10月の授賞式では、放送技術の「パイオニア」として、実用的なトランスダクション技術を開発したTheodore Willard Case氏・Georges Claude氏、そして認識可能なテレビ映像を初めて実演したJohn Logie Baird氏も表彰される予定です。

また、応用技術の活用そのものを評価する競争部門「Excellence in Production Technology — Application」(今回で3回目)のノミネート作品として、以下が挙げられています。

  • Good Morning America(ABC News/The Walt Disney Company)
  • Prime Vision(NFL Thursday Night Football/SportsMEDIA Technology)
  • Star Wars: Skeleton Crew(Disney+)

受賞作は10月14日の授賞式にあわせて発表されます。


Television Academy / NATAS 公式プレスリリース(PDF)

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