NVIDIA、「DLSS 5」の詳細と開発者向けアートディレクション機能を発表

CGソフト

2026年7月20日(現地時間) – NVIDIAは、ロサンゼルスで開催されたSIGGRAPH 2026にて、次世代のニューラルレンダリング技術である「DLSS 5」の詳細な研究内容と、開発者向けのアートディレクションコントロール機能に関する基調講演を行いました。

このプレゼンでは、NVIDIAの応用ディープラーニングリサーチ担当ディレクターであるEdward Liu氏と、コンテンツテクノロジー担当ディレクターのGabriele Leone氏が登壇し、レンダリングされたフレームをAIモデルの基盤として活用する手法や、アーティストの意図を維持するための課題解決について解説を行いました。

DLSS 5 | SIGGRAPH 2026 基調講演

NVIDIA SIGGRAPH 2026 Keynote

DLSS 5 | SIGGRAPH 2026 Keynote Presentation

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Keynote Highlights

以下では、発表の詳細をまとめています。

グラフィックスとAIが共に歩む「次なる飛躍」

Liu氏のプレゼンテーションは、リアルタイムグラフィックスの歴史を振り返ることから始まりました。プログラマブルシェーダーの登場、そしてDLSS 4を伴うパストレーシング(リアルタイムでの完全な光のシミュレーション)に至るまで、数年ごとに画期的な技術がイメージの忠実度を飛躍させてきました。しかし、リアルタイムレンダリングはまだ「現実と見分けがつかない」レベルには到達していません。

一方で、生成AIモデルはすでに現実世界における光の散乱(肌や髪の毛の質感)や屈折(ガラスなどの表現)を学習し、写真のような写実性を獲得しています。しかし、従来の生成モデルは非常に重く、レンダリングカメラのようにミリ単位で制御することが困難という課題がありました。

DLSS 5のコアコンセプト:
「ゲームのレンダラーが作者の意図通りに世界を構築し、生成AIモデルがその後処理として外観(アピアランス)を豊かにする。」

つまり、シミュレーションが世界を定義し、生成AIがその質感を高めるという、双方の長所を組み合わせたアプローチがDLSS 5の基本思想となっています。

リアルタイムゲームにAIを組み込むための「3つの技術的課題」

ゲームのレンダリングフレームを生成AIの入力(グラウンディング)として使用するアイデアはシンプルですが、実際にこれをリアルタイムで機能させるためには、3つの根本的な研究課題があったとLiu氏は語ります。

 アートの意図の維持(Preserving the artistic intent)

一般的な生成AIは確率的であり、指示を出すたびに結果が変わる傾向があります。例えば、キャラクターの顔にある傷跡を、AIが「美しくない」と判断して消してしまっては、キャラクターのアイデンティティ(物語)が変わってしまいます。

これを防ぐため、DLSS 5ではアルベド(基礎反射率)、表面法線、ライティング情報などのレンダラーの内部バッファを入力として使用します。モデルはこれらの情報に厳密に従い、元の形状や意図を変更することなく、サブサーフェススキャタリング(表面下散乱)やコンタクトシャドウ(接地影)などの写実性を高める要素だけを追加するようにトレーニングされています。

時間的な安定性(Temporal streaming)

一般的な動画生成AIは、複数のフレームをまとめて処理(バッチ処理)しますが、ユーザーの入力に即座に反応する必要があるゲームでは、未来のフレームを先読みすることはできません。

DLSS 5は、ゲームエンジンから得られるモーションベクトルを活用することで、過去と現在の情報のみを使用する因果的(Causal)なフレーム・バイ・フレーム処理を実現しています。これにより、ピクセルのちらつきやズレ(シマーリングやスイミング)のない、時間的に安定した映像をリアルタイムに出力します。

処理速度(Speed)

4K解像度(約800万ピクセル)を60fps以上で描画するには、1フレームあたり16ミリ秒未満しか時間がありません。しかも、その処理時間の大部分はゲーム自体の計算に割り当てられます。

そこでNVIDIAは、巨大な基盤モデルから世界の外観に関する知識を抽出し、ゲームのグラフィックス向上という「1つの目的」に特化した、1ステップのピクセル空間拡散トランスフォーマーモデルへと圧縮しました。「汎用的な猫の動画」を生成する能力は失われましたが、ゲーム内でエンジンと並行して動作するコンパクトさと効率性を獲得しています。

アーティストによる詳細なディレクション機能

続いて登壇したGabriele Leone氏は、開発者がDLSS 5をどのように制御できるかのデモンストレーションを行いました。DLSS 5はAIが勝手に画面を書き換えるブラックボックスではなく、アーティストが最終的なルックを調整できるツールとして設計されています。

  • AIモデルの選択: 開発者は、異なるパラメータでトレーニングされた複数のモデル(Model A, B, Cなど)から、シーンやカットシーンの雰囲気に合わせて最適なものを選択できます。
  • グローバルコントロール:
    • Structure Intensity(構造強度): アンビエントオクルージョン、サブサーフェススキャタリング、反射など、高周波ディテール(質感)の適用強度を調整します。
    • Tone Intensity(トーン強度): ライティングや色合いなど、低周波ディテール(表現力)の適用強度を調整します。
  • オートマスキング: DLSS 5は画面内の要素(キャラクターと背景など)を意味的に理解しているため、スライダー1つで「キャラクターにのみDLSS 5の効果を強く適用する」といった制御が可能です。
  • エンジン側からのマスキング: ゲームエンジン側で指定した特定のオブジェクト(例:シーン内のボトルや果物だけ)に対してマスクを適用し、アイテムごとに独立してStructureやToneの強度を微調整することができます。

Leone氏は最後に、従来のレンダリングでは計算コストが非常に高かった植物のサブサーフェススキャタリング(光が葉を透過する表現)が、DLSS 5をオンにするだけでプラスチックのような質感から現実の植物のような瑞々しい質感へと変化する様子を示しました。

グラフィックスの未来へ向けた展望

講演の最後にLiu氏は、DLSS 5はこれまでのプログラマブルシェーダーやレイトレーシングと同様に、「グラフィックスを置き換えるのではなく、拡張するもの」であると強調しました。画面上のすべてのピクセルは、依然として「クリエイターがそこに存在してほしいと意図したもの」であり、DLSS 5はその意図を守るために構築されています。

また、このアプローチの利点として、将来的にAIモデルのトレーニングデータや学習手法(損失関数など)が改善されれば、ゲーム実行時の処理コストを増やすことなく、直接的に画質の向上が得られるというスケーラビリティが挙げられました。

Liu氏は最後に、「完全なリアルタイムのフォトリアリズムへの道のりはまだ続くものの、アーティストの制御(ディレクション)と生成AIの豊かな表現力を融合させたDLSS 5は、リアルタイムグラフィックスにおける新たな次元への第一歩となる」と展望を語り、講演を締めくくりました。

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