NVIDIA Omniverseのライセンス条項が2026年5月付で変更され、これまで開発用途に限られていた無料利用の範囲が、本番環境(プロダクション)での利用や再配布にまで拡大されました。
この変更は大々的なプレスリリースを伴わず、ライセンスドキュメントの更新と、2026年7月1日にNVIDIA開発者フォーラムへ投稿された告知という控えめな形で公表されています。
Omniverseの登場とこれまでの歩み
NVIDIA Omniverseは、「リアルタイムコラボレーションとシミュレーションのためのオープンプラットフォーム」として登場しました。
PixarのUniversal Scene Description(現OpenUSD)とNVIDIA RTXをデータ・レンダリング基盤とし、MayaやHoudiniなど複数のDCCツールをNucleusサーバー経由で接続することで、アプリケーションやユーザーをまたいだライブコラボレーションと、物理ベースのリアルタイムシミュレーションを実現することが当初の中核的な価値でした。
2019年のGTCで初めて発表され、2020年12月にオープンベータが公開されて以降は、専用のデスクトップアプリケーション「Omniverse Launcher」を通じて、様々なアプリやコネクター、アセットが統合的に提供されてきました。
現在のOmniverseと開発環境の変化
現在、Omniverseは特定のアプリケーションという枠組みを超え、物理AI(フィジカルAI)アプリケーションを開発するための「ライブラリとマイクロサービスの集合体」へと大きく形を変えています。
公式ページではシミュレーションワークフローの中核として、産業施設のデジタルツイン、合成データ生成、ロボットシミュレーション、自動運転車シミュレーション、ロボット学習の5分野が紹介されており、NVIDIAサイト全体のユースケース一覧では、これらに加えて生成AIとデジタルツインを活用した3Dコンテンツ生成や、数値流体力学(CFD)シミュレーションも挙げられています。ロボティクスや産業分野にとどまらず、コンテンツ制作からエンジニアリングシミュレーションまで幅広い領域をカバーするプラットフォームになっています。
こうした転換の一環として、従来のOmniverse Launcherは2025年10月1日をもって非推奨となりました。かつてランチャー内で提供されていた各種リソースは、以下のように移行先が分かれています。
- Kit・アプリ・サンプル・ツール・テンプレート: GitHub または NGC Catalog
- コネクター: NGC Catalog(なお多くのコネクターはメンテナンスモードに入っており、各アプリケーション側のネイティブUSDサポートの利用が推奨されています)
- エクステンション: 各ベンダーのWebページ、または NVIDIA OpenUSD Ecosystem Catalog
- コンテンツ・アセット: NVIDIA Documentation Hub(OmniDocs)
移行の詳細は Omniverseレガシーツールのページ および NVIDIA開発者フォーラム で確認できます。
ランチャーに同梱されていた「Nucleus Workstation」も同時に提供終了となり、継続利用を希望する場合はNGC Catalogから「Enterprise Nucleus Server」を取得する形式になっています。ただし、Enterprise Nucleus Serverはテスト・開発用途では無料であるものの、本番環境での利用にはエンタープライズライセンス(エンタープライズサポート付き)が別途必要である点に注意してください。
これに伴い、現在Omniverseで開発を始める方法は大きく3つに整理されています。
- エージェントスキルを使い、Omniverseの機能を物理AIシミュレーションエージェントからツールとして呼び出せるようにするアプローチ
- Omniverseのライブラリとマイクロサービス(OpenUSDによるデータ連携、NVIDIA PhysXによる高度な物理演算、NVIDIA RTXによるレンダリング、センサーシミュレーションなど)を使って、構築済みの物理AIシミュレーション機能を自作のアプリケーションやサービスに組み込むアプローチ
- NVIDIA Blueprintsをリファレンスワークフローとして活用し、産業用デジタルツインやロボティクスシミュレーションといった物理AIアプリケーションの開発を素早く立ち上げるアプローチ
いずれもOmniverse開発者向けポータルから始めることができます。
この変更に関する公式の発表が行われました。詳細は以下の記事をご覧ください。
ライセンスの変更について
今回のライセンス変更により、2026年5月以降、これまで無料だった開発用途に加えて、本番環境(プロダクション)での利用も完全に無料になりました。従来、本番環境へのデプロイには「NVIDIA AI Enterprise」のサブスクリプション(定価でGPUあたり年間4,500ドル)が必要でしたが、この要件が撤廃されました。
さらに、Omniverseのライブラリやツールを組み込んで開発したソフトウェアも、同じライセンス条項の下で自由に再配布できるようになりました。自社製品にOmniverseを組み込んで提供するISVやシステムインテグレーターにとっては、特に影響の大きい変更と言えます。
なお「無料」となったのはあくまでOmniverseのソフトウェア(ライブラリおよびツール)自体のライセンスです。ライセンス契約(NVIDIA Software License AgreementおよびProduct-Specific Terms)への同意は引き続き必要であり、また実際のデプロイに伴うGPUインスタンス、ストレージ、ネットワークなどのインフラコストは別途発生します。
エンタープライズ向けサポートの提供形態
ソフトウェア自体の利用は無料となりましたが、業務利用において公式のエンタープライズサポート(保証された応答時間、パッチ提供、導入支援など)が必要な企業に向けては、引き続き「NVIDIA AI Enterprise」サブスクリプションによるサポートが提供されます。
- エンドユーザー向け: 自社でOmniverseを利用する顧客は、NPNリセラーやクラウドサービスプロバイダー(CSP)のマーケットプレイスからサブスクリプションを購入できます。導入規模の大きい顧客には組み込みライセンスが適用される場合もあります。
- 再配布を行うパートナー向け: Omniverseを自社製品やサービスに組み込んで再配布するパートナー向けには「組み込みライセンスモデル」が用意されています。このモデルでは、パートナーがエンドユーザーに対する一次サポート(フロントラインサポート)を提供し、NVIDIAがパートナーに対してバックエンドから技術的な支援を行います。
サポートに関する注意点
NVIDIA AI Enterpriseサブスクリプションを契約せずに無料で利用する場合、公式のテクニカルサポートは提供されません。疑問の解決やトラブルシューティングは、NVIDIA Developer Forumや公式Discordを通じたコミュニティサポートに限定されます。
関連リソースへのアクセス
新しいライセンスの詳細な規約や、各種ツール・ドキュメントへのアクセスは以下のリンクよりご確認いただけます。
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